期待できる研究成果

研究部

1.カイコ冬虫夏草は、老化促進マウスの実験で海馬の傷を修復し記憶を改善します。

これまでの論文では、老化促進マウスの海馬のCA3という領域(空間認識で重要な部分)におけるグリオーシス(神経膠症反応)という病変が、カイコ冬虫夏草の熱水抽出物で完全に消え、記憶が回復するということを発見し、発表しています。

図1には、正常老化マウス(コントロール)、老化促進マウス、および老化促進マウスにカイコ冬虫夏草の熱水抽出物を経口投与したグループの海馬を観察した結果を示しています。

岩手大学発ベンチャー企業株式会社バイオコクーン研究所によるカイコ冬虫夏草の研究成果

マウスの組織化学的な観察結果、ヘマトキシリン‐エオシン(HE)染色ではコントロールの正常老化マウスグループ(A)、老化促進マウスグループ(C)、老化促進マウスに低濃度の熱水抽出物(5 mg/kg/日)を経口投与したグループ(E)、老化促進マウスに高濃度の熱水抽出物(25 mg/kg/日)を経口投与したグループ(G)では違いは認められませんでした。ところが、グリオーシス(神経膠症反応)病変として青紫に染色されるホルツァー染色では、グループ間に大きな差が観察されました。

正常老化マウスグループでは病変は観察されず(B)、老化促進マウスグループではその病変が鮮明に観察されています(Dの図中の白い矢印)。その上驚くべき観察として、これらの老化促進マウスに熱水抽出物を投与したグループでは、病変が激減し(F)、また高濃度の経口投与グループではほとんど観察されませんでした(Hの図中の白い矢印は存在しない)。

これとは別の記憶行動実験で、正常老化マウスの記憶に比較して老化促進マウスの記憶は低下しており、この老化促進マウスに熱水抽出物を経口投与することで、記憶の改善効果が明らかにされています。

以上の研究結果から、カイコ冬虫夏草には脳機能改善効果があり、このことは、将来ヒト試験などを経ることで(寺山ら、2016)、アルツハイマー病を含む認知症、パーキンソン病などの脳疾患の改善のための機能性食品や医薬品の開発が期待できると考えています。

【参考文献】
  • 石黒慎一・対馬正秋・シラパコング=ピヤマース・鈴木幸一(2016)カイコ冬虫夏草の機能解析と応用開発. 蚕糸・昆虫バイオテック, 85: 63-67.
  • 鈴木幸一(2016)国民医療費削減と地方創生を目指した非繊維型養蚕イノベーションの提案.蚕糸・昆虫バイオテック, 85: 59-61.
  • Suzuki, K. ら (2017) Neuro-protective properties of the fungus Isaria japonica: Evidence from a mouse model of aged-related degeneration.
    In: Atta-ur-Rahman (Ed.), Frontiers in Clinical Drug Research (Alzheimer Disorders),Vol. 6, Bentham Science Publishers, pp.154-186.
  • 寺山靖夫・大塚千久美・鈴木幸一(2016)カイコ冬虫夏草の乾燥粉末のアルツハイマー型認知症脳機能向上に及ぼす効果. 岩手医学雑誌, 68:223-227.

2.食べる桑は天然の機能性強壮剤になります

世界中の研究ジャーナル(食品栄養科学、薬学、ライフサイエンス、がん科学、臨床医学分野など)に掲載された桑に関する77編の論文をまとめたレビューが発表されました(Butt ら、2008)。桑には、抗菌性・抗酸化・抗動脈硬化・血糖上昇抑制・免疫賦活・抗がん・神経保護・美白に関する機能性があると紹介されています。

オランダのこの報告の約800年前にわが国の栄西禅師が『喫茶養生記(下巻)-吉田全訳注、2000』の中で、飲水病(糖尿病)や中風(脳血管障害の後遺症)に効用があると記述していますが、学術的な古いヒト試験では、桑葉が糖尿病と高血圧に効果があると報告されています(井上・橘、1938)。21世紀に入ってインドのグループは、Ⅱ型糖尿病患者を対象にして、糖尿病治療薬のグリベンクラミド(5 mg/日)を30日間服用したグループと、桑葉粉末1gを1日毎食後3回、4週間継続して摂取したグループを比較しました。その結果、桑葉粉末グループの方が血糖値の減少・中性脂質の低下・LDLの低下・HDLの増加などが改善されています(Andalluら、2001)。これは、桑葉が医薬品を超えている理想的な証左となります。

われわれのグループは、ヒト試験のモデル生物である線虫(C.エレガンス)を用いて、寿命延伸効果を検討しました。その結果、図2に示したように桑葉のエタノール抽出物では平均寿命を約17%延伸することが確認できました。ポジティブコントロールである抗てんかん薬のエトスクシミドの35%には及ばなかったのですが、両者の濃度はいずれも2 mg/mlですので、単体のエソスクシミドを超える寿命延伸が期待できます(Sillapakongら、2011;シラパコングら、2016)。

図2. 桑葉と桑葉抽出物による17%寿命延伸効果(Sillapakongら2011;シラパコング・鈴木2016を改変)

以上のように桑は温故知新の研究素材であり、まさに天然の機能性強壮剤の可能性を秘めているのです。

【参考文献】
  • Andallu, B. ら (2001) Effect of mulberry (Morus indica L.) therapy on plasma and erythrocyte membrane
    lipids in patients with type 2 diabetes. Cli. Chim. Acta, 314, 47-53.
  • Butt, M.S. ら (2008) Morus alba L. nature's functional tonic. Trends Food Sci. Tech., 19, 505-512.
  • 井上吉之・橘 宏(1938)桑葉の医薬的利用について. 日蚕雑, 9, 1-8.
  • Sillapakong, P. ら (2011) Morus alba leaf extract increases lifespan in Caenorhabditis elegans. J. Insect Biotech.
    Sericol., 80, 89-92
  • シラパコング=ピヤマース・鈴木幸一(2016)食べる桑の機能解析と応用開発.蚕糸・昆虫バイオテック, 85, 69-74.
  • 吉田紹欽(全訳注)(2000)栄西喫茶養生記, 講談社, pp. 186.

3.食べるシルクも機能性の宝庫です

5000年以上の養蚕の歴史で、シルクを食べるという発想でカイコフィブロインタンパク質(繭からのもう1つの水溶性タンパク質はセリシン)の食品化に成功したのは、平林 潔博士(当時東京農工大学教授)の研究グループです。

塩酸加水分解法により、高分子の難溶性フィブロインからオリゴペプチドと遊離アミノ酸からなる低分子のシルクパウダーが製造され、このシルクパウダーを高コレステロール症とエタノールの大量投与のラットに摂食させることで、肝機能改善の薬理効果が認められました(平林、1991)。これが研究の発端となり、これまで国内外の食べるシルクに関する研究成果をまとめてみたところ、図3(右)のようになります。

われわれ研究グループは、カイコフィブロインパウダーでマウスの毛髪のアンチエイジング効果を確認しています(Yamamotoら、2011)。図3(右)に示した機能性解析のヒト試験はまだ一部であり、製造法も含めて今後の機能性の実証が期待されます。

図3. 天蚕の幼虫とフィブロインならびにセリシンの発表論文からみた薬理効果(苅間澤・鈴木2016を改変)
【参考文献】
  • 平林 潔(1992)絹を食べる. 化学, 47(28), 25-28.
  • 苅間澤真弓・鈴木幸一(2016)食べるシルクの機能解析と応用開発. 蚕糸・昆虫バイオテック. 85, 75-79.
  • Yamamoto、K.ら (2011) Peptides from Bombyx fibroin counter D-galactose-induced hair aging in mice. Int.
    J. Indust. Entomol., 23, 201-206.

ケミカルライフサイエンス分野で養蚕イノベーションの実践

1803年(享和3年)刊行の『養蚕秘録』(上垣守国著)は、わが国の技術輸出の第一号といわれています。それは、極東の養蚕書が幕末にフランスにわたり養蚕事業に貢献していたという歴史的な経緯が明らかにされているからです(竹田敏著、『幕末に海を渡った養蚕書』、東海大学出版部、2016、写真左)。

また、1934年に刊行された『長野県蚕業試験場報告26~28号』(写真右)には、松本季美博士による「家蚕の消化液及び体液におけるアミラーゼ作用に関する遺伝学的並びに生理的な研究」の論文が掲載されています。これは、世界に先駆けて「一遺伝子・一酵素説」を発表した論文です。しかし1941年に、アカパンカビを研究材料とした「アカパンカビの生化学的反応による遺伝子制御」を米国科学アカデミー紀要に発表したビードル博士とテータム博士は、一遺伝子・一酵素説により1958年にノーベル医学生理学賞を受賞しています。なぜ、7年前にカイコを材料とした松本博士の論文発表は評価されなかったかといえば、それは和文による研究成果であり、わが国のカイコ関連の研究者のみに限られていたからです。

このように、江戸時代から第二次世界大戦前までのわが国のカイコに関する学術と産業は輝かしい実績があり、その中で第一工業製薬株式会社は、1909年に日本製で良質な繭の解じょ剤「シルク・リーラー」を発明し事業化をスタートしました。100年以上を経た現在、植物由来の新しい増粘剤、セルロースナノファイバーを世界に発信しています。同時に創業の原点に立ちながらライフサイエンス事業を設け、農学分野から誕生した大学発ベンチャー企業株式会社バイオコクーン研究所をグループ化しました (第一工業製薬株式会社)。独創性が高く持続性の期待できるケミカルライフサイエンス(化学生命科学)という新しい分野を開拓することで、医療費削減と地方創世のための切り札になる養蚕イノベーションを実践していきます。

『幕末に海を渡った養蚕書』(東海大学出版部、2016)(左)『長野県蚕業試験場報告26~28号』(1934)(右)

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